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不眠(不眠症、不眠障害、睡眠障害)について ④

[2021.05.10]
 今回も睡眠に関することの続きです。前回(③)、不眠障害(不眠症)の原因について考えていきました。今回は不眠障害(不眠症)の治療についてお話しましょう。
 現在の不眠障害(不眠症)治療の主流は、睡眠薬を用いた薬物療法ですが、慢性・難治性の治療では、必然的に治療薬は長期使用、高用量かつ多剤併用となりがちです。しかしながら、依存性や副作用(例えば、ふらつきなど筋肉の弛緩作用や健忘作用)などのリスクと効果について薬物療法の妥当性を常に考え、漫然とした長期処方にならないよう注意が必要です。このような観点から、薬物療法と平行して、できるだけ早期から睡眠衛生指導や認知行動療法などの心理・行動的介入を行うといった非薬物治療も重要です。ただし、不眠障害(不眠症)の症状と病態は患者さんごとに多様であるため、個々のケースごとに適宜判断していかなければなりません。当院では、不眠障害(不眠症)の治療は睡眠衛生指導を基本とし、睡眠薬は補助的に使っていきます。ただし、睡眠薬の服用により実際に眠れたという体験は重要であると考えます。これによって過覚醒状態が改善し、不眠への過度な不安がなくなることがあるからです。睡眠薬を服用して安定した睡眠が得られたら、睡眠薬は漸減中止して生活指導を主体とした治療になります。ここで、睡眠薬だけの治療では難しいことについてですが、医療機関を受診される不眠障害(不眠症)患者さんの中には、睡眠薬を飲めば、どのような時間帯であってもすぐに眠ることができ、しかもぐっすり長時間眠ることもでき、眠った後はすっきり目覚めることができるなどと、過剰な期待をもっていらっしゃることがあります。もちろん薬物療法により眠れるようになる方も多いですが、残念ながら全ての方がそうなるとは言えません。むしろ適切な生活習慣が奏効することも多いので、薬剤調整をしつつ一緒に考えていきたいと思います。
 睡眠衛生についてですが、良質な睡眠が得られるよう、睡眠に関する適切な知識を持ち、生活を改善することが重要となります。内容としては、以下のようになります。
・定期的に運動をする : 運動習慣により、定期的に適度な有酸素運動をすると寝つきやすくなり、睡眠が深くなります。ただし、夜間に過度な運動をすると、身体の興奮が高まり入眠しにくくなって逆効果となってしまいますので、夜に運動するなら軽い運動とし、遅くとも入眠2時間前には終えるようにしましょう。
・規則正しい食生活をする : 人の健康にとって、規則正しい食生活は欠かせません。もちろん睡眠にとっても大切です。特に、朝食は心と体の目覚めに重要です。夜食はごく軽く、脂っこいものや胃もたれする食べ物を就寝前に摂るのは避けましょう。
・就寝の1~2時間前にぬるま湯に入る : 38~40℃のぬるま湯に15分くらいつかるのが良いでしょう。人間の体の内部の体温、すなわち深部体温は、覚醒時より睡眠時の方が低くなっています。これは、睡眠中は温度を下げて臓器、筋肉や脳を休ませ、覚醒時は温度を上げて体の活動を維持するためです。一方、手足の温度、すなわち皮膚温度は、深部温度と真逆で、昼に低くて夜間高くなります。そもそも体温は、筋肉や内蔵による熱産生と、手足からの熱放散によって調節されていますが、健康な人の場合、入眠前には手足が温かくなり、皮膚温度が上がって熱を放散し、深部体温を下げています。通常、覚醒時には、深部体温の方が皮膚温度より2℃くらい高いのですが、上記のことから入眠前には、深部体温と皮膚温度の差が2℃以下に縮まっています。つまり、スムーズに入眠するためには、深部体温と皮膚温度の差が縮まっていることが重要と考えられます。そこで、ぬるま湯に入ることにより深部体温を一時的に上昇させると、深部体温はその分大きく下がろうとする性質があるため、入眠時に必要な深部体温の下降が大きくなり、熟眠につながります。また、ぬるま湯につかることで、手足など抹消の毛細血管が拡張し、血行が良くなるため熱放散されやすくなります。さらには、入浴により心身のリラックス効果も得られ、副交感神経優位となり、眠りにつきやすくなります。一方、42℃以上の熱いお湯に入ると、交感神経優位となり、興奮して覚醒してしまったり、深部体温が高いまま下がりにくくなってしまい、むしろ逆効果となるため注意が必要です。
・就寝前に水分を摂りすぎない : 就寝前に水分を摂りすぎると、夜中のトイレが頻回となります。ただし、脳梗塞や狭心症など血液循環に問題のある方は主治医の指示に従ってください。
・就寝前にカフェインを摂らない : 就寝の4時間前からは、カフェインを含む飲食物(日本茶、コーヒー、紅茶、コーラ、チョコレートなど)は摂らないようにしましょう。カフェインを摂取すると、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなったりします。
・就寝前にお酒を飲まない : 睡眠薬代わりの寝酒は逆効果です。アルコールを飲むと一時的に寝つきが良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に目が覚めやすくなって、深い睡眠を減らしてしまいます。
・就寝前に喫煙しない : ニコチンには精神刺激作用があるため、少なくとも就寝前1時間の喫煙は避けましょう。
・寝室環境を整える : 音対策のためドアをしっかり閉める、遮光カーテンを用いる、快適な室温に保つなど、寝室環境を整えることにより夜中の目覚めは減るでしょう。
・眠たくなってから床に就く : 就寝時刻にこだわりすぎないようにしましょう。寝よう寝ようとする意気込みや努力により、かえって目がさえてしまうといった過覚醒状態が生じ、寝付きを悪くしてしまいます。
・寝床に悩みを持っていかない : 昼間の悩みを寝床に持っていかないようにしましょう。
・毎朝同じ時刻に起きる : 早寝早起きを意識するのではなく、朝起きる時間は一定にしましょう。つまり、眠れない夜であっても朝は同じ時刻に起きるようにします。特に気をつけるべきことは、学校や仕事が休みである日(土・日・祝日など)に遅くまで寝床で過ごすと、さらに熟眠感が減り、翌朝がつらくなってしまいます。
・朝は太陽の光を浴びる : 体内時計のスイッチを入れるため、朝起きたら日光を取り入れましょう。
・昼寝をするなら15時前の30分以内にする : 昼寝をする場合は、午後3時までにすること、つまり、午後3時以降就寝前までは寝ないようにしましょう。さらに、昼寝は30分以内に留めましょう。30分以上寝てしまうと、夜の睡眠に悪影響を及ぼしてしまいます。
 次に、薬物療法についてです。不眠障害(不眠症)の治療薬としては、主に以下のような6種類の薬を使用していくことが多いと思います。
・GABA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)
・メラトニン受容体作動薬
・オレキシン受容体拮抗薬
・漢方薬
・催眠・鎮静系抗うつ薬
・抗精神病薬
 風邪薬一つとっても言えることですが、どんな薬でも副作用を完全に否定することはできません。主な副作用としては、持ち越し効果による日中の眠気、筋弛緩作用によるふらつき、転倒、健忘などがあります。そのため、もし効かないと思われても自己判断で多めに飲むことはやめましょう。反対に、急に服薬をやめることでの反跳性不眠が生じる場合もあります。次回受診時に、主治医と相談するようにしましょう。 (参考:臨床精神医学テキスト、今日の精神疾患治療指針、スタンフォード式 最高の睡眠、厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針2014厚生労働科学研究班 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン
 当クリニックは 京都市下京区 四条 烏丸 にある 心療内科 精神科 メンタルクリニック です。
 当クリニックでは、お薬が必要と判断した場合でも、患者さんと相談し、薬の効果と副作用を考慮しつつ必要最小限の薬とし、薬に頼りすぎない診療を心がけています。
(令和3年5月10日)
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